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1.調査概要
目的:
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特許の質的性質を示す主要なパラメータとして、IIPACでは、1)注目度、2)TS値(特許の広さ)を採用しています。
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これらのパラメータが果たして特許の質的側面を如実に表しているのか、定量的な検証を図る必要があります。
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そこで本調査では、特許の質的パラメータを、近年の特許侵害訴訟の結果との関係において定量分析を行い、特許の質的パラメータの有用性を、実際の特許の活用性との関係において検証することを目的とします。
2.調査方法
1)裁判所ホームページの知的財産裁判例集において、以下のスクリーニング条件に基づいて判決文をスクリーニング〈分析対象のスクリーニング条件〉・裁判年月日が平成26年1月1日~令和5年4月21日に判決が確定したもの・権利種別“特許権”、訴訟類型“民事訴訟”の条件の下で特許権侵害差止等請求事件、特許権侵害損害賠償請求事件の地裁判決。・知財高裁判決は、調査対象から除外。・IPCの先頭のアルファベットが、A分野(生活必需品)、G分野(物理学) (母集団数が多かった上位2分野)
2)スクリーニングした判決文を読み込み、侵害訴訟の結果を判別する。〈侵害訴訟の結果の判別条件1〉認容・・・・特許発明の技術的範囲に侵害被疑対象が含まれ、特許権者が勝訴棄却(逸脱)・・・・特許発明の技術的範囲に侵害被疑対象が逸脱し、特許権者が敗訴。無効理由がある場合もこちらに分類棄却(無効のみ)・・・特許権自体に無効理由があり、特許法第104条の3のみに基づき特許権者が敗訴〈侵害訴訟の結果の判別条件2〉判別条件1では、3種に分類したが、判別条件2では、以下の2種に分類包含・・・・認容+棄却(無効のみ)→特許発明の技術的範囲に侵害被疑対象が含まれると判断されたケース逸脱・・・・棄却(逸脱)→特許発明の技術的範囲に侵害被疑対象が含まれないと判断されたケース3)判決文を読み込み、訴訟対象となっている特許番号を読み取り、その質的パラメータとして①注目度、②TS値をデータベースから抽出4) 2)と3)の結果を統計分析
3.調査結果
【Aセクション】
判別条件1
判別条件2
(1)TS値
相関比 η2 | 0.4357 |
統計量:t | 自由度 | P 値 | *:P<0.05 **:P<0.01 | ||
観測値 | t検定 | 2.5615 | 84 | 0.0122 | * |
Welchの方法 | 2.4499 | 60.1009 | 0.0172 | * | |
ランク化 | t検定 | 3.0101 | 84 | 0.0034 | ** |
Welchの方法 | 2.9312 | 64.3202 | 0.0047 | ** |
(2)注目度
相関比 η2 | 0.8602 |
統計量:t | 自由度 | P 値 | *:P<0.05 **:P<0.01 | ||
観測値 | t検定 | 3.6376 | 84 | P < 0.001 | ** |
Welchの方法 | 3.8761 | 82.7933 | P < 0.001 | ** | |
ランク化 | t検定 | 3.4493 | 84 | P < 0.001 | ** |
Welchの方法 | 3.5142 | 75.0251 | P < 0.001 | ** |
【Gセクション】
判別条件1
判別条件2
(1)TS値
相関比 η2 | 0.3386 |
統計量:t | 自由度 | P 値 | *:P<0.05 **:P<0.01 | ||
観測値 | t検定 | 0.2552 | 59 | 0.7995 | |
Welchの方法 | 0.2543 | 55.8893 | 0.8002 | ||
ランク化 | t検定 | 0.3946 | 59 | 0.6945 | |
Welchの方法 | 0.3946 | 58.9258 | 0.6946 |
(2)注目度
相関比 η2 | 0.9344 |
統計量:t | 自由度 | P 値 | *:P<0.05 **:P<0.01 | ||
観測値 | t検定 | 4.7873 | 59 | P < 0.001 | ** |
Welchの方法 | 4.8342 | 45.0240 | P < 0.001 | ** | |
ランク化 | t検定 | 4.7411 | 59 | P < 0.001 | ** |
Welchの方法 | 4.7622 | 55.9479 | P < 0.001 | ** |
4.考察
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A分野はTS値が高くなるほど、”認容”、”包含”が高くなることが統計的に示されています。G分野はTS値が高くなるほど、”包含”が高くなることが統計的に示されています。特許の権利範囲が広くなるほど(TS値が大きくなるほど)、特許の活用性が高くなることが分かります。
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A分野、G分野ともに、注目度が高くなるほど、”認容”、”包含”が高くなることが統計的に示されています。特許の広さのみならず、注目度も高い方が、特許の活用性が高くなることが分かります。